やがて来る影 五十の影
走り来る影 五十の影
人間、それなりに歳を食い始めると、色んな部分にガタがくるのだということを最近感じ始めている。
仕事でやることを忘れないようにメモしていても、メモしたことすら忘れていたり、漫画を読もうとしても、絵と台詞の情報量の多さについていけず、途中で読むのをやめてしまったり。
どんなに腹のぜい肉を落とそうとしても、新陳代謝がそれを許さなかったり、色んなところの体毛が、銀色に白に変色している面積が想像以上に増えていたり…。
時の流れの速さに驚愕しつつ、何とか日々を乗り切る日々。
やがて来る影 五十の影
走り来る影 五十の影
そんなガタを横目に、いつまでも変わらず笑顔でこちらを見つめるものが眼下にある。
何十年も何十年も人々の-特に子供や女子たちに絶大なる人気を誇るこのネズミが佇むトイレマットの上で、無口に苦悩する俺がいる。
それは加齢の為せる業か-
いつ頃からだろう? 週末など休みになると何故か便秘を患うようになった。
会社では快便なのに、何故か家では便秘に苦しむ。普段ならあまり気にしないよう努めるとこなのだが、ほら今は、全国的にバカンスな季節。俺も必然長期休暇の只中にいる訳だ。
つまり-下手をすればこのバカンスな季節中ずっと、便秘に苛まされることになる。
流石にそれは嫌なので、俺はネズミのマットを素足で踏みつけ便座に座り、その笑顔を足裏で汚すのだ。
世界一有名なネズミを汚す快感に浸る余裕もなく、俺は密かに密かに自分の体と格闘する。
下腹部の苦しみを一刻も早く。
下腹部の苦しみを一刻も早く。
足元に目を向ければ、清々しくあざ笑うかな擬人化ネズミ。
どのくらい時間は流れたのか、微かに排出した感覚を下腹部に感じて、けれどすっきりした感覚は全く感じないまま、俺は戦いに負けたことを悟る。
-笑うなネズミ。懸命に戦ったのだ。懸命に戦った結果がこれなのだ。
ウォシュレットの後、せめてどのくらい排出出来たか確認するのに、便座から立ち上がってのぞき込む。そして全く出ていないことに絶望する。あの感覚は何だったんだと溜息一つ。加齢による感覚の相違かとか思考しつつペーパーを巻き取る。
-そして。
踏み出した左足の踵に違和感を感じ
踏み込んだ違和感に絶望を感じ
立ちのぼる悪臭に戦慄が奔る
世界一のネズミの顔に刻まれた、暗黒色の苦い疵-。
やがて来る影 五十の影
走り来る影 五十の影
なんのタイミングで汚物がネズミの上に落ちたのかは敢えて想像すまい。
悪臭に満ちた空間で、そのネズミの笑顔に刻まれた傷を、加齢で華麗な自分の行動を、凝視と沈黙の中思考停止に陥っていく。
やがて来る影 五十の影
走り来る影 五十の影
それでもなお、ネズミは笑顔を絶やすことなく、プロフェッショナルなままこの亜空間に佇んでいる。
俺は一人、踵から放つ悪臭に咽び、無口に苦悩しつつ天井を見上げるのだった。
走り来る影 五十の影
人間、それなりに歳を食い始めると、色んな部分にガタがくるのだということを最近感じ始めている。
仕事でやることを忘れないようにメモしていても、メモしたことすら忘れていたり、漫画を読もうとしても、絵と台詞の情報量の多さについていけず、途中で読むのをやめてしまったり。
どんなに腹のぜい肉を落とそうとしても、新陳代謝がそれを許さなかったり、色んなところの体毛が、銀色に白に変色している面積が想像以上に増えていたり…。
時の流れの速さに驚愕しつつ、何とか日々を乗り切る日々。
やがて来る影 五十の影
走り来る影 五十の影
そんなガタを横目に、いつまでも変わらず笑顔でこちらを見つめるものが眼下にある。
何十年も何十年も人々の-特に子供や女子たちに絶大なる人気を誇るこのネズミが佇むトイレマットの上で、無口に苦悩する俺がいる。
それは加齢の為せる業か-
いつ頃からだろう? 週末など休みになると何故か便秘を患うようになった。
会社では快便なのに、何故か家では便秘に苦しむ。普段ならあまり気にしないよう努めるとこなのだが、ほら今は、全国的にバカンスな季節。俺も必然長期休暇の只中にいる訳だ。
つまり-下手をすればこのバカンスな季節中ずっと、便秘に苛まされることになる。
流石にそれは嫌なので、俺はネズミのマットを素足で踏みつけ便座に座り、その笑顔を足裏で汚すのだ。
世界一有名なネズミを汚す快感に浸る余裕もなく、俺は密かに密かに自分の体と格闘する。
下腹部の苦しみを一刻も早く。
下腹部の苦しみを一刻も早く。
足元に目を向ければ、清々しくあざ笑うかな擬人化ネズミ。
どのくらい時間は流れたのか、微かに排出した感覚を下腹部に感じて、けれどすっきりした感覚は全く感じないまま、俺は戦いに負けたことを悟る。
-笑うなネズミ。懸命に戦ったのだ。懸命に戦った結果がこれなのだ。
ウォシュレットの後、せめてどのくらい排出出来たか確認するのに、便座から立ち上がってのぞき込む。そして全く出ていないことに絶望する。あの感覚は何だったんだと溜息一つ。加齢による感覚の相違かとか思考しつつペーパーを巻き取る。
-そして。
踏み出した左足の踵に違和感を感じ
踏み込んだ違和感に絶望を感じ
立ちのぼる悪臭に戦慄が奔る
世界一のネズミの顔に刻まれた、暗黒色の苦い疵-。
やがて来る影 五十の影
走り来る影 五十の影
なんのタイミングで汚物がネズミの上に落ちたのかは敢えて想像すまい。
悪臭に満ちた空間で、そのネズミの笑顔に刻まれた傷を、加齢で華麗な自分の行動を、凝視と沈黙の中思考停止に陥っていく。
やがて来る影 五十の影
走り来る影 五十の影
それでもなお、ネズミは笑顔を絶やすことなく、プロフェッショナルなままこの亜空間に佇んでいる。
俺は一人、踵から放つ悪臭に咽び、無口に苦悩しつつ天井を見上げるのだった。
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