-星空がほら、透明に透明に輝きを降らせているじゃないか。
相変わらず週末になると、俺の傍らには当たり前のようにアイボリー(チャリ)の存在がある。
初夏に出会い-
烈夏を駆け抜け-
晩秋の斬り風に抗い-
厳冬をものともせず-
アイボリーとの蜜月は続き、春の息吹を全身に纏う今に至る。
年末、アイボリー磨きに二時間寒風に身を晒した結果、全身これ発熱を帯び正月休みを棒に振った記憶もまだ新しい。
悔しさと虚しさと我が愚かさを一気に味わった新しい年の始まり。
悪寒と吐き気と滝のように流れ出る汗と戦った新しい年の始まり。
けれどアイボリーに罪はない。
美しき新年。
蜜月は、斯くも困難をも乗り越える。
真冬のある日-。
親が会社の忘年会ということで、「夕飯は適当に食べてて」という御触れを前もって頂いていた。
会社で仕事をこなしつつも果たして夕飯をどう食すべきか-。内心続く色々な葛藤。
車でどこかに食いに行くか?
店屋物を出前するか?
帰りがけコンビニで何か買うか?
他愛もない葛藤のお陰で仕事をミスるのを愛嬌と呼べるのかは定かではない。
一つの閃きによって食の葛藤は消え、新緑の思考に笑みが浮かぶ。
それでも仕事ではミスを犯すあたり、どうやら葛藤とは無関係な愛嬌。
閃きの新緑の中身はこうだ。
車では近すぎ、かといって歩くのには遠いところに「HM」なる弁当屋があったではないか。寒風吹きすさぶ週末ではあるけれど、アイボリーにまたがるいいチャンスでもある。これしかない。
僥倖の笑みに翳りはない。
蜜月は、最善の導きを我に宿す。
既に夕刻の紅は消え、透明に瞬く星空の元、アイボリーは軽快なチェーンの回転音で俺の期待に応えてくれる。
寒風もペダルを漕げば体内で熱を帯び、やがて流れ出る水分が身体の脂肉を筋肉に変化させてくれる-。といつも思っているが、腹に蓄積したままの奇妙な脂肉は、メタボルな魔法で俺を困惑させる。
けれど轟け16インチ。
風を切り裂け16インチ。
俺の脚はお前の車輪。
空腹は大いなるパワーチャージ。
勢いつけて弁当の城へ。
星空がほら、透明に透明に輝きを降らせているじゃないか。
白い息と水蒸気で霞んだ眼鏡の先、空腹を満たす城では元気な声が「いらっしゃいませ」
アイボリーの車輪にチェーン型キーロックをかけた俺は、自動扉の向こうに飛び込んでいった。
暫しの空白の後、弁当を抱えて嬉しそうな俺。空腹は最大のスパイス。
温かいうちに弁当を食すために、些かアイボリーを酷使しなければいけないなと考えつつ、ポケットから取り出したキーをキーロックに差し込もうとした刹那-。
手から零れ落ちたキーが側溝の重い石で出来た上蓋で跳ねた。
軽い金属音を振り撒きながら、まるでホールのカップに吸い込まれるゴルフボールのように、上蓋の隙間から側溝の暗黒の中に消えていった。
店員。自動扉から出て来た老人。車に乗り込もうとしていた女性。そして俺。
それぞれの瞼の奥に、その光景がそれぞれの角度で一瞬の絵画を作り出していく。
-瞬間の呆然。
我に還った俺はあわててそのクソ重い上蓋を取り除こうと試みたが、長年の風雪に耐えてきたその重い蓋が動くわけがなく、蜜月アイボリーを見つめて途方に暮れた。老人が何か俺に声をかけて来た時、思わず乾いた笑いを出してしまっていた。
車では近すぎ、かといって歩くのには遠いところにある我が家。
寒風吹きすさぶ週末ではあるけれど、10数㎏あるアイボリーを担いで歩く苦行の時間でもある。
そこにあるのは暗黒の隙間。
そこにあるのは蜜月の重力。
我を穿つ蜜月の隙間に、ただ、虚しい笑いが木霊する。
白い息の中、重さに耐えながら空を見上げれば星空がほら、透明に透明に輝きを降らせているじゃないか。
我が家に着いた時には、弁当は完全に冷えていた。
蜜月は、斯くも困難な道程を晒す。
相変わらず週末になると、俺の傍らには当たり前のようにアイボリー(チャリ)の存在がある。
初夏に出会い-
烈夏を駆け抜け-
晩秋の斬り風に抗い-
厳冬をものともせず-
アイボリーとの蜜月は続き、春の息吹を全身に纏う今に至る。
年末、アイボリー磨きに二時間寒風に身を晒した結果、全身これ発熱を帯び正月休みを棒に振った記憶もまだ新しい。
悔しさと虚しさと我が愚かさを一気に味わった新しい年の始まり。
悪寒と吐き気と滝のように流れ出る汗と戦った新しい年の始まり。
けれどアイボリーに罪はない。
美しき新年。
蜜月は、斯くも困難をも乗り越える。
真冬のある日-。
親が会社の忘年会ということで、「夕飯は適当に食べてて」という御触れを前もって頂いていた。
会社で仕事をこなしつつも果たして夕飯をどう食すべきか-。内心続く色々な葛藤。
車でどこかに食いに行くか?
店屋物を出前するか?
帰りがけコンビニで何か買うか?
他愛もない葛藤のお陰で仕事をミスるのを愛嬌と呼べるのかは定かではない。
一つの閃きによって食の葛藤は消え、新緑の思考に笑みが浮かぶ。
それでも仕事ではミスを犯すあたり、どうやら葛藤とは無関係な愛嬌。
閃きの新緑の中身はこうだ。
車では近すぎ、かといって歩くのには遠いところに「HM」なる弁当屋があったではないか。寒風吹きすさぶ週末ではあるけれど、アイボリーにまたがるいいチャンスでもある。これしかない。
僥倖の笑みに翳りはない。
蜜月は、最善の導きを我に宿す。
既に夕刻の紅は消え、透明に瞬く星空の元、アイボリーは軽快なチェーンの回転音で俺の期待に応えてくれる。
寒風もペダルを漕げば体内で熱を帯び、やがて流れ出る水分が身体の脂肉を筋肉に変化させてくれる-。といつも思っているが、腹に蓄積したままの奇妙な脂肉は、メタボルな魔法で俺を困惑させる。
けれど轟け16インチ。
風を切り裂け16インチ。
俺の脚はお前の車輪。
空腹は大いなるパワーチャージ。
勢いつけて弁当の城へ。
星空がほら、透明に透明に輝きを降らせているじゃないか。
白い息と水蒸気で霞んだ眼鏡の先、空腹を満たす城では元気な声が「いらっしゃいませ」
アイボリーの車輪にチェーン型キーロックをかけた俺は、自動扉の向こうに飛び込んでいった。
暫しの空白の後、弁当を抱えて嬉しそうな俺。空腹は最大のスパイス。
温かいうちに弁当を食すために、些かアイボリーを酷使しなければいけないなと考えつつ、ポケットから取り出したキーをキーロックに差し込もうとした刹那-。
手から零れ落ちたキーが側溝の重い石で出来た上蓋で跳ねた。
軽い金属音を振り撒きながら、まるでホールのカップに吸い込まれるゴルフボールのように、上蓋の隙間から側溝の暗黒の中に消えていった。
店員。自動扉から出て来た老人。車に乗り込もうとしていた女性。そして俺。
それぞれの瞼の奥に、その光景がそれぞれの角度で一瞬の絵画を作り出していく。
-瞬間の呆然。
我に還った俺はあわててそのクソ重い上蓋を取り除こうと試みたが、長年の風雪に耐えてきたその重い蓋が動くわけがなく、蜜月アイボリーを見つめて途方に暮れた。老人が何か俺に声をかけて来た時、思わず乾いた笑いを出してしまっていた。
車では近すぎ、かといって歩くのには遠いところにある我が家。
寒風吹きすさぶ週末ではあるけれど、10数㎏あるアイボリーを担いで歩く苦行の時間でもある。
そこにあるのは暗黒の隙間。
そこにあるのは蜜月の重力。
我を穿つ蜜月の隙間に、ただ、虚しい笑いが木霊する。
白い息の中、重さに耐えながら空を見上げれば星空がほら、透明に透明に輝きを降らせているじゃないか。
我が家に着いた時には、弁当は完全に冷えていた。
蜜月は、斯くも困難な道程を晒す。
コメント
タイヤが回らないチャリほど重いもんはないよなっっ
タイヤの回らないチャリは鉄くず以下だ。
ものすげー疲れた。
去年末の出来事をやとうpかよw