振り返る犬。(再掲)
2009年9月19日 エッセイその犬は白かった。優しさの表れの様に白かった。
俺は犬があまり好きじゃない。嫌いでもないのだが、あの「顔舐め」攻撃にどうしても耐えられないのだ。あれがなければ結構好きなのかもしれない。
その白い犬も興奮すると俺の顔を舐めようとして痛い目をついていた。
白い犬の名を「ぽん」と言った。
「ぽん」は友人宅の前の家に飼われていた雄犬だ。どこから見ても立派な雑種だったが、犬にしては頭の回転の速そうな知的な目をしていた。
飼主の性格が彼には幸いして、鎖につながれる時間はかなり少なく、自由気ままに街中を徘徊していた。しかし夜は結構家にしっかり戻っていたように感じられる。
俺と「ぽん」との出逢いなどもう既に忘れた。気が付けば俺たちの周りをうろうろしていたようにしか思えない。あまり吠えることもなく、俺はいつしか彼に対し好感を持っていた。
ぽんは臆病だった。ちょっとした驚きで遥か彼方まで逃げていくような犬だった。
とある時、友人のひとりがぽんの口を握って離そうとせずじっと目を合わせていると、ぽんは完全に腰を抜かして失禁してしまい、口を離してやると腰を抜かしたまま前足だけでへこへこ逃げて行った姿が哀れで滑稽で可愛かった。
それ以来ぽんはその友人を見ると金縛りにあって失禁するというトラウマを持った哀れ犬。
あれはまだ20代前半。いつものように友人宅に遊びに行き、真夜中まで暴れ回って満足して帰ろうとすると、ぽんは自分の家から姿を現した。眠い目擦りながらもぽんと少しじゃれあってから帰ろうとすると、ぽんは俺の前を歩いて俺の行く方に歩いて行った。
どこにいくんだろう? そんなこと考えつつもぽんの後ろを歩いていく俺だが、ぽんは一向に走ろうともせず、俺との距離を一定に保つ。そして一本路地を過ぎると、
ちら。
ぽんは俺がついて来てるのを確認するかのようにこちらを見て、確認するとまた一定の距離を保ったまま歩く。
ちら。
ちら。
ちら。
ある程度距離を歩けば、流石に俺も「ぽん」が俺を「先導」してくれている事に気付く。その振り向く表情が非常にいとおしくて、すげー嬉しかった。
星の光の夜光灯。一人と一匹はどちらを問う訳でもなく、何となく心のつながりを感じつつ歩くのだ。
ちら。
俺が無事家についたのを確認すると、彼は何も言わず自分の家に帰っていく。
その行為はそれ一度きりではなく、それから友人宅から俺が真夜中帰る時は、必ずと言っていいほど先導してくれた。時折意地悪して途中で足を止めると慌てて俺の傍まで戻ってくる、そんな犬だった。
もうとうに彼はこの世に存在してはいないのだが、時折こうして彼の姿を思い出して、優しい気分になる俺なのだ。
その犬は白かった。優しさの表れの様に白かった。
ちら。
俺は犬があまり好きじゃない。嫌いでもないのだが、あの「顔舐め」攻撃にどうしても耐えられないのだ。あれがなければ結構好きなのかもしれない。
その白い犬も興奮すると俺の顔を舐めようとして痛い目をついていた。
白い犬の名を「ぽん」と言った。
「ぽん」は友人宅の前の家に飼われていた雄犬だ。どこから見ても立派な雑種だったが、犬にしては頭の回転の速そうな知的な目をしていた。
飼主の性格が彼には幸いして、鎖につながれる時間はかなり少なく、自由気ままに街中を徘徊していた。しかし夜は結構家にしっかり戻っていたように感じられる。
俺と「ぽん」との出逢いなどもう既に忘れた。気が付けば俺たちの周りをうろうろしていたようにしか思えない。あまり吠えることもなく、俺はいつしか彼に対し好感を持っていた。
ぽんは臆病だった。ちょっとした驚きで遥か彼方まで逃げていくような犬だった。
とある時、友人のひとりがぽんの口を握って離そうとせずじっと目を合わせていると、ぽんは完全に腰を抜かして失禁してしまい、口を離してやると腰を抜かしたまま前足だけでへこへこ逃げて行った姿が哀れで滑稽で可愛かった。
それ以来ぽんはその友人を見ると金縛りにあって失禁するというトラウマを持った哀れ犬。
あれはまだ20代前半。いつものように友人宅に遊びに行き、真夜中まで暴れ回って満足して帰ろうとすると、ぽんは自分の家から姿を現した。眠い目擦りながらもぽんと少しじゃれあってから帰ろうとすると、ぽんは俺の前を歩いて俺の行く方に歩いて行った。
どこにいくんだろう? そんなこと考えつつもぽんの後ろを歩いていく俺だが、ぽんは一向に走ろうともせず、俺との距離を一定に保つ。そして一本路地を過ぎると、
ちら。
ぽんは俺がついて来てるのを確認するかのようにこちらを見て、確認するとまた一定の距離を保ったまま歩く。
ちら。
ちら。
ちら。
ある程度距離を歩けば、流石に俺も「ぽん」が俺を「先導」してくれている事に気付く。その振り向く表情が非常にいとおしくて、すげー嬉しかった。
星の光の夜光灯。一人と一匹はどちらを問う訳でもなく、何となく心のつながりを感じつつ歩くのだ。
ちら。
俺が無事家についたのを確認すると、彼は何も言わず自分の家に帰っていく。
その行為はそれ一度きりではなく、それから友人宅から俺が真夜中帰る時は、必ずと言っていいほど先導してくれた。時折意地悪して途中で足を止めると慌てて俺の傍まで戻ってくる、そんな犬だった。
もうとうに彼はこの世に存在してはいないのだが、時折こうして彼の姿を思い出して、優しい気分になる俺なのだ。
その犬は白かった。優しさの表れの様に白かった。
ちら。
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