一去年、我が家の前にあった日@の赤舞台が移転ということで無くなった。
俺が幼稚園の頃からあった車屋だったから、移転の話を聴いた時は何やら寂しい感じがしたものだ。
大感謝祭とかで玩具を貰いまくったのも遠い日のセピア色。

しかし、移転というからには当然建物が無くなったりするのも常。
ガンゴンガンゴン解体音。
セピア色郷愁も無機質異音に掻き消される。
それが世の常時は流れる。
日々の解体音が消えたと思えば、突然家の目の前がコインパーキングになったもんだから、国道から我が家は丸見えになってしまい、何やら訳もなく羞恥心。
1日500円のパーキングは徐々にその実力を見せ始め、今や週末には満員御礼大感謝で駐車出来るスペースも無い。
そんなパーキングの一角に、その白い車はいたのだ。


-梅雨の隙間を彩る晴れ間は心を和ませてくれる。

休日の早起きもだいぶ身に付いたものだと感じつつ、パジャマのままで新聞のページを捲りお茶を啜る。
これは休日の快感である。かけがえの無い快感である。
パーキング側から吹いてくる青い風が心に柔らかい。
ほら、外では小鳥たちも無邪気に鳴いているではないか。
若かりし頃、この時間帯を何故にあそこまで惰眠を貪りこいていたのかと考える。
今なら勿体無くて仕方が無いのだが、それは人生の終焉が-まだ遠くではあるけれど-肌に実感として感じ始めているからに他ならない。
無限と思われた時間は、有限なる宝と知るに至る。
そうして徐々に、時間という掌から零れ落ちる砂を必死にかき集めるように生きることになっていくのだろう。誰も例外なく。

何とはなしにお袋と適当な会話を交わしていると、急に身体が変調する。
小鳥たちの鳴声もお袋の声も脳髄に遠く響く程、急に身体が変調する。
胸を覆う嘔吐感は、確かに響く警告の鐘。
理由の無い変調に成す術を持たない俺は体調不良を呟いて、取り敢えず部屋の中布団に潜る事にした。
危険に満ちた青い風、吹いた。

次に目を覚ました時は午前中も終わろうかという時間だった。
惰眠を貪っていた時代なれば、時計を横目にまた一眠りだったろう。
警告の鐘も薄まり、一体あれは何だったんだと考えつつ茶の間に向かえば、何やらお袋も体調不良。二人して何か悪いものでも食べたのだろうか?

何となく調子の出ない二人の時間に飛び込んできたのは玄関チャイム。
玄関開ければそこには見慣れたユニフォーム。
彼らの名を人は警察と呼ぶ。
ユニフォームの後ろには、警察車両と消防車両が集まりだしていた。

彼は告げる。
我が家の目の前のコインパーキングにて、今朝方硫化水素ガスによる車内自殺未遂が発生。先程自殺未遂者当人から通報があり、硫化水素ガスを発生させた原因を処理すべく急行せしと。尚、処理には危険が伴うので、家中の窓やドアは完全に閉じ、緊急時には直ぐに脱出出来るように準備されたしと。

ツマリハ、カラダノヘンチョウヲトモナウコノジタイハ、クルマカラノドクガスモレニヨル、ジサツミスイノトバッチリトイウコトダ。

命令を受けたからにはその旨に従うのが正しい。正しいのではあるが、危険ならば先に家から出させてくれよとも思う中、ドラマでよく見かける進入禁止の黄色いテープがパーキング周辺に張り巡らされた。
家に残された二人は事の顛末を見届けるために二階に上がり、我が家に一番近い駐車区画に停めてあったその白い車を凝視した。
危険な青い風を吹かせたその白い車を。

完全防備を身をまとった特殊班の方のそれは、どう見ても黄色いダースベイダー。
ガスマスクから聞こえる呼吸の音も、正にダースベイダーのそれ。

そしてダースベイダーは車両後部座席から、バケツに入った見慣れた科学液体日用品を無事運び出したのだった。

青い風、止んだ。

終焉が-まだ遠くではあるけれど-肌に実感として感じ始めている我が人生。
無限と思われた時間は、有限なる宝と知るに至る。
掌から零れ落ちる砂を必死にかき集めるようにもがく人生の傍で、かくもあっさりと自分の人生を捨てようとする人がいる。

幸、不幸の差はあれど、皆もがいて生きている。
人の人生に口出しは差し控えたいが、自分で見切りをつけた命に赤の他人を巻き込むな。
死に切れなかったからには、もがいてもがいて生きてみせろ。
青い風の向こうに、有限なる宝の大切さを感じてみせろ。

もう目の前のパーキングにあの白い車はないが、死に切れなかったかの人は、今どうしているのかと頭をかすめる時がある。
柔らかい風を浴びながら、笑顔の中にあればいいのであるが。

今日も風は心地よく肌に触れ、週末の楽しさを服の中一杯に詰め込んで、玄関から一歩目の足を踏み出す。
掌の砂をかき集めながら。

そう、掌の砂をかき集めながら…。


コメント

はなくろ
2009年2月14日20:44

あーいつぞやの話でしたか。。巻き添えはたまったもんじゃないね(苦
まぁでも未遂でよかった。完遂してたらまたそれはちょっとね…汗
比較的近所で昔、あった事件
発作かなんかで不調になったらしい人が、某娯楽施設の駐車場に車をとめたけど
アクセル踏んだまま意識不明になって炎上したってのを思い出した…汗汗

萬。
2009年2月15日10:42

☆はなくろ様
コメントさんきゅー。前にはなさんには実況した内容だったんで微妙かなとも思ったんだけど、ま、たまにはこういうのもありでw

炎上って…うへえ。それはかなりきつい話だなあ。

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