猿空の下猿空の下、饗宴は続く。

年末には雪が降り、年始はこうして凍て付く。外より寒くなる我が家我が部屋。グラスの中の氷は溶ける気配を見せはしない。けれど日々をこの部屋で過ごしていれば、そりゃあ身体だって異様に冬に強くなるってものだろう。
けどそれでいい。
けどそれでいい。
だからこそ冬が好きな人間になれたのだから。

部屋の西には窓がある。この部屋で唯一の下界に通じる大事な窓である。週末以外開ける事は無いが、今の時期、窓を開けて掃除をすれば、寒風が身を引き締めて凛とした気持ちになれる。そりゃあまるで修行に酷似した緊張感があるだろう。
WINDOW
WINDOW
凛とした風で部屋を埋め尽くしてくれ。

西の窓から下界に顔を出してみれば、家の塀の向こうには小さな月極駐車場が広がる。日々車が駐車したりしなかったり。車社会のシステムの果て。お袋の車もここにある。昔は遊び場のひとつとして利用していた気がするが、それも遠い昔。そりゃあ記憶のひとつもあやふやになるってものだろう。
でもそれも宿命。
でもそれも宿命。
この歳になれば、色んなものが抜け落ちるものだ。

−凛とした青空も更に緊張感を増した夜の紫を迎え、強風が我が家を撫でる。西の窓はその強風に耐え、だからこそ部屋でノンビリ出来る俺がいる。

寒空の下寒空の下、今夜も道路で嬌声の宴。いつもの現実を外に聞き、電気カーペットの上で読書に勤しむ俺がいる。
寒空の下寒空の下、今夜も道路で罵声の宴。いつもの現実が耳に遠い。敢えて耐える必要も無いほど慣れてる俺がいる。
寒空の下寒空の下、西の窓の外の駐車場で女性が話す声が聞こえる。低いトーンの響きは男の声だ。いつもの現実が脳に弱く霞む。聞き耳を立てる必要も感じない俺がいる。

ふと。
一瞬文字を追う目が宙を泳いだ。
ナンノオトダ?
ふと。
一瞬ページを開く手の動きが止まった。
ナンノオトダ?

コレハドコカラキコエルオト?

聞き耳を立てる必要もない。それは西の窓の向こう側から響く音。寒風の下界から響く音。

駐車場で語る男女。駐車場で語る男女。女性の声色が徐々に変化する。妖艶に妖艶に変化する。
寒空の下寒空の下、女性の声が妖しく淫らに変化する。

−マジデスカ? ココハマチナカデスヨ?−

西の窓の向こう、寒空の下でめくるめく広がる猥褻の調べ。
西の窓の向こう、寒空の下がめくるめく広がる非現実の調べ。
西の窓の向こう、寒空の下でめくるめく広がるまぐあいの調べ。

西の窓を挟んで、現実と非現実が交差する。

猿空の下猿空の下、強風と争う女性の響き。
猿空の下猿空の下、淫らな吐息と喘ぎ声。
猿空の下猿空の下、隠微な音が充満する。
猿空の下猿空の下、激しい動きと調和する猥褻。
猿空の下猿空の下、反り返る肉欲の調律。
猿空の下猿空の下、饗宴は続く。

突然湧き上がる非現実の音に、俺は為す術も無く壊されていた。
饗宴は30分くらい続いたであろうか?
喘ぎ声が消えた頃、すっかり脳内おピンク汚染された男が、電気カーペットの上でのたうっていた−。

非現実の猿空は、いつもどこかに潜んでいることを知る。
そして今朝も、グラスの中の氷は溶けていなかった。

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