赤い壁。

2004年11月23日 エッセイ
突き上げるもの突き上げるもの。

夏の暑い陽射しを浴びながら、俺たちは今年もこの土地に真っ直ぐに立った。昨年の今頃、チケット忘れた友人Tのあの行動(2003.11/2「高速ノイズ」参照)もまだ記憶に新しいまま、俺たち−俺・T・KK−は今年もこの土地に真っ直ぐに立ったのだ。
去年も言った。俺たちは槍が降ろうと掻い潜ってここにこなければならない宿命を持つ者たちなのだからと。
だから俺たちは声を大にしていいのだ。完全復活した靖幸ちゃんの勇姿を見るために声を大にしていいのだ。
突き上げるもの突き上げるもの。
夏の陽射しに踊れ心よ。

濃い緑に乱反射する日光が去年、俺の肌を容赦なく痛めつけたが今年は大丈夫。露出した肌の部分には確実に乳液に似た白い液体を塗り込んである。去年の痛みを思い出せ。今年の痛みに抵抗するのだ。太陽に反逆する行為がまた、冷えたビールが喉越しに響く度に、俺たちの声を大にさせる。
突き上げるもの突き上げるもの。
夏の陽射しと踊れ素肌。

去年のこの野外イベントでは、実際仲間内だけに等しかった人数も今年は違う。KちんやBちゃん(2003.11/10「高貴な亜空間」参照)も加わって、靖幸ちゃん隊の人数は確実に増えている。二人はお手製の「靖幸ちょぁん」Tシャツを着て、久しぶりの俺たちを迎え入れてくれた。昨年買った「岡村ちゃん」Tシャツ着た俺たちと肩を組んで再会の写真を−。笑顔の中に極なる熱を秘めた二人の同志の姿が、俺たちの声を大にさせる。
突き上げるもの突き上げるもの。
夏の陽射しに踊れ掌。

午後に入って更に日光の乱反射は強くなる。
吹き出る汗に戦いを挑むようにビールを補給する。
スプリンクラーのシャワーが虹を作る。
見知らぬ靖幸ちゃんファンと高らかに腕を振り上げる。
屋台で購入した高いカレーに舌鼓を打つ。
破裂しそうな膀胱を押さえて慌ててトイレに駆け込む。
扇子で扇ぐ肌から一筋の汗が深い緑に消える。
プロの歌声と重低音の波が深く身体に刻まれる。
時が一陣の風とともに過ぎていく。
突き上げるもの突き上げるもの。
夏の陽射しと踊れ笑顔。

そして−。
夕刻の陽射しが俺たちに降り注ぐ頃、パレードの幕が上がる。
靖幸ちゃんに会うために集まった同志の波が、彼の動きに呼応するように前へ前へと押し迫っていく。これだけの人の波の前では個人の力は意味をなさない。翻弄されて落ち着いた先で、靖幸ちゃんが説明不可能なパフォーマンスを繰り広げる。TもKKも皆ばらばら。KちんとBちゃんは確実に最前列にいるのだろう。
情熱の渦。
熱狂の叫び。
俺たちは声を大にしていい。俺たちは声を大にしていいのだ。
突き上げるもの突き上げるもの。
夏の陽射しよ踊れ我等と!

しかしだ。実はさっきから気になるものが一つある。
叫びながら踊りながら腕を振り上げながらも、とても気になる赤い壁−。
波に押されて辿り着いた俺のすぐ斜め前に、赤い服を着たやや大柄な男。丁度彼の肩口から俺の顔が前に出るような形になるのだ。非常に邪魔なのだが、注意を促そうとしてみても、彼にはもう何も見えていない。ただ一点を凝視するのだ。ちょっと後ろを見てみれば、彼の真後ろには小柄な女性の姿が。これはいたたまれない。しかし鮨詰満員電車状態の俺には女性に何もしてやれず、赤い壁に対し、二人で目配せで困った顔をすることしか出来ない。

−靖幸ちゃんの絶叫が、赤い壁の心に何を穿ったのだろうか?

赤い壁はこともあろうに俺の顎を肩に乗せたまま、音に合わせてジャンプし始めたのだ。一瞬、舌を噛みそうになった。そしてジャンプは止むことなく、確実に俺の顎を直撃していく。
顎先から脳に突き抜ける振動が、俺を前後不覚にさせる。
顎先から脳に突き抜ける振動が、俺の視界をぶれさせる。
顎先から脳に突き抜ける振動が、靖幸ちゃんの声をぼやけさせる。

突き上げるもの突き上げるもの。
夏の陽射しが赤に弾ける。
突き上げるもの突き上げるもの。
夏の陽射しに脳が揺れる。
突き上げるもの突き上げるもの。
夏の陽射しと揺れる壁…。

靖幸ちゃんについては堪能出来たと思うのだが、イベント終了後、にわかパンチドランカーに変身していた俺は、人波の中、夏の闇夜を背中に背負ったまま呆けていた。

突き上げるのは赤い壁…。

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