洗礼。−冷たさは、空の果てからやってくる−
2002年1月17日高校と言うものは、大概にして体育教師が妙に生徒指導の権力を持っていたりする。
うちの高校の場合は就職率の高い高校だったために(俺は進学だった)、その体育教師の権力というものはかなり強大なものであった。毎日のように行われていたげた箱前での生徒指導。今考えるとなんて無駄なエネルギーを使っていたのだろう。生徒も教師も。俺も例に漏れず、毎日のように先生に捕まっては注意されていたのだ。切られた切符は総計すればかなりの数になったなあ。
あれは高校二年。10月も後半。晩秋の空気が俄かに初冬の匂いを帯びてきた時期のこと−。
今にも泣き出しそうな低い雲が立ち込める屋外、何故か俺とクラスメートは、海パンでプールサイドに立っていた。それも男だけ。
何故? 何故? 何故?
そんな疑問をサングラスの体育教師に投げかけたいが、何せ相手は元柔道インターハイ出場の重量級。下手な質問すればぶん殴られること請け合い。実際、夏にプールを休んで見学していた奴らを鉄拳でぶん殴ってプールに落とし、プールが血の色と化した現場を俺は見ている。誰も逆らえるわけもなく。
「さ・・・さみーっっっ!」
級友の叫びは皆の声。ガチガチ身体を震わせながら、俺たちは少しでも温めようと、身体を擦ったりするのだ。俺たちが海パン一枚なのに、教師はちゃんと着込んでいる。これが遣る瀬無さに変わるのに時間はかからない。
「なあに、プールの中に入っちまえば温かいから大丈夫だ!」
あ・・あんた何を根拠にそんなこと言うんですか!
しかし温かさを求める身体たちは、その言葉に出すら縋りたいのだ。
「じゃあ皆! 入れーッ!」
体育教師の号令が飛んでも、凶器と化した水滴に誰が触れたい訳もない。しかし彼の命令に逆らえば、それこそ血の雨が降る−。薄い憎しみすら感じながら、俺は潔くプールの中に飛び・・・込めるわけねーじゃん!!!!
ちろりちろり身体を水に馴らせば、寒風が肌に直接あたり、寒さがいっそうこたえてくるのだ。
(飛び込んだらマジ死ぬぞ)
でもサングラス越しの彼の目から逃げられるわけもなく。
「ドボン」「ドボン!」と音が鳴る。飛沫を上げて音が鳴る。ホラ続けホラ続け。黒山軍隊皆続け!
水中は彼が言うように温かい・・・訳がなく、断じて彼が言うように温かいわけがなく、風がないという以外、水温は限りなくプールサイドと同じかそれ以下だ。1分も入れば皆の唇の色が紫色に変色してきた。紫紫真紫。君も僕も同じ色。
これは何かの洗礼か? それとも懺悔か?
紫の軍隊は逃げ場を求めたいのだが、こうなると風の冷たさが凶器。水にいるしかない。
これは授業ではなく、既にしごきの様相を示している。
「あ・・・・」
空を見上げれば低い雲から雨滴が落ちてくる。落ちて繰る落ちてくる落ちてくる。
落ちてくる・・・・って、これは
「雨じゃねーよーっ!!! 雹だあっ!」
水の地獄に降る凶器。
上から下からの洗礼に、俺たちは為す術もなかった。大粒の雹は、嘲笑うかのように降り続ける。
母なる大地よ 父なる自然よ どうか人々を見捨てないで−。
次の日、学校を休んだ者が何人いたかなど、俺の記憶からは抜け落ちている。
ただ、あの体育教師のサングラス越しの目の輝きだけが、心の奥深く、俺の中にいつまでも焼きついているのだった。
真紫色。
うちの高校の場合は就職率の高い高校だったために(俺は進学だった)、その体育教師の権力というものはかなり強大なものであった。毎日のように行われていたげた箱前での生徒指導。今考えるとなんて無駄なエネルギーを使っていたのだろう。生徒も教師も。俺も例に漏れず、毎日のように先生に捕まっては注意されていたのだ。切られた切符は総計すればかなりの数になったなあ。
あれは高校二年。10月も後半。晩秋の空気が俄かに初冬の匂いを帯びてきた時期のこと−。
今にも泣き出しそうな低い雲が立ち込める屋外、何故か俺とクラスメートは、海パンでプールサイドに立っていた。それも男だけ。
何故? 何故? 何故?
そんな疑問をサングラスの体育教師に投げかけたいが、何せ相手は元柔道インターハイ出場の重量級。下手な質問すればぶん殴られること請け合い。実際、夏にプールを休んで見学していた奴らを鉄拳でぶん殴ってプールに落とし、プールが血の色と化した現場を俺は見ている。誰も逆らえるわけもなく。
「さ・・・さみーっっっ!」
級友の叫びは皆の声。ガチガチ身体を震わせながら、俺たちは少しでも温めようと、身体を擦ったりするのだ。俺たちが海パン一枚なのに、教師はちゃんと着込んでいる。これが遣る瀬無さに変わるのに時間はかからない。
「なあに、プールの中に入っちまえば温かいから大丈夫だ!」
あ・・あんた何を根拠にそんなこと言うんですか!
しかし温かさを求める身体たちは、その言葉に出すら縋りたいのだ。
「じゃあ皆! 入れーッ!」
体育教師の号令が飛んでも、凶器と化した水滴に誰が触れたい訳もない。しかし彼の命令に逆らえば、それこそ血の雨が降る−。薄い憎しみすら感じながら、俺は潔くプールの中に飛び・・・込めるわけねーじゃん!!!!
ちろりちろり身体を水に馴らせば、寒風が肌に直接あたり、寒さがいっそうこたえてくるのだ。
(飛び込んだらマジ死ぬぞ)
でもサングラス越しの彼の目から逃げられるわけもなく。
「ドボン」「ドボン!」と音が鳴る。飛沫を上げて音が鳴る。ホラ続けホラ続け。黒山軍隊皆続け!
水中は彼が言うように温かい・・・訳がなく、断じて彼が言うように温かいわけがなく、風がないという以外、水温は限りなくプールサイドと同じかそれ以下だ。1分も入れば皆の唇の色が紫色に変色してきた。紫紫真紫。君も僕も同じ色。
これは何かの洗礼か? それとも懺悔か?
紫の軍隊は逃げ場を求めたいのだが、こうなると風の冷たさが凶器。水にいるしかない。
これは授業ではなく、既にしごきの様相を示している。
「あ・・・・」
空を見上げれば低い雲から雨滴が落ちてくる。落ちて繰る落ちてくる落ちてくる。
落ちてくる・・・・って、これは
「雨じゃねーよーっ!!! 雹だあっ!」
水の地獄に降る凶器。
上から下からの洗礼に、俺たちは為す術もなかった。大粒の雹は、嘲笑うかのように降り続ける。
母なる大地よ 父なる自然よ どうか人々を見捨てないで−。
次の日、学校を休んだ者が何人いたかなど、俺の記憶からは抜け落ちている。
ただ、あの体育教師のサングラス越しの目の輝きだけが、心の奥深く、俺の中にいつまでも焼きついているのだった。
真紫色。
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